秦と足軽稼働中

マンガ描いたり映画を観たり

仕掛人・藤枝梅安/鑑賞日記

久しぶりの映画鑑賞日記です。はてなブログを始めた頃は月イチ?だったかな?でやっていた気がします。映画を観る本数はその頃と変わってはいないんですがなかなか感想を書く時間がなくて。たまに仕事のお知らせ記事の最後に観た映画の話をちょっと書いたりしてますね。今回はちょっと書くにしても長くなりそうだったのと、久しぶりの劇場での時代劇に歓喜したのとあって残しておこうかなということで感想記事を作っています。観ましたのはこちらの作品。

仕掛人・藤枝梅安』(しかけにん・ふじえだばいあん)

原作者の池波正太郎生誕100周年を記念した作品ということです。池波正太郎と聞いてすんなりわかるのってどれくらいの歳までなんでしょうか?あんまり歳も関係ないのかな?時代小説家としてとても有名な方で映像化された作品もシリーズ化して大人気です。鬼平犯科帳剣客商売シリーズが有名。(今もやってるんでしょうか?テレビを見てないのでわからない…。私は中村吉右衛門さんの平蔵が好きでした。また見たいなぁ)

 

監督:河毛俊作 脚本:大森寿美男

撮影:南野保彦 照明:奥田祥平(good job!!!!)

主演:豊川悦司片岡愛之助

 

さて、『仕掛人・藤枝梅安』。映画館で予告は何度か観ていて「気合の入った時代劇だなぁ」と思ってはいたんですが怖くてなかなか観に行けなかったんですね。なんで怖かったかというと、私は時代劇が大好きでして…。しかも偏食気味といいますか。<好きなタイプの時代劇>が結構しっかりある人間で。なんというか…喋り方とか発声の方法とか、身のこなしとか(身分やキャラクターによって変わってて欲しい)…にこだわりがあって…。例えば、現代ぽい喋り方、現代のテンポの会話、などがあるだけで観られなくなっちゃうんですね。

時代劇というのは作り手が<この世界はこういうもの>と定めて作るものだと思っているので(なにせ誰も江戸時代も戦国時代も知らないんだし)、制作側が「この世界の人たちは現代のように話す」と決めればそれでいいと思います。それで時代劇を見る人もいるし裾野が広がるのは素晴らしいことだと思う。ただ、私はそれだと見られない、というだけの話です。それにしては時代劇が大好きなので映画館に観に行って「ああ、これはダメな方のだった!あと2時間これを観るのか…!」となった時のダメージが普通の映画より重いんですね。そういうわけで渋りに渋っておりました。

(あと余談ですが、梅安を観る前に信長の映画を観に行ってまして。これは自主的にではなくて事情があって観たのですが。観る前からどういう企画かはわかっていましたし、時代劇のつもりで観るつもりもなかったし、心づもりさえちゃんとしていれば大丈夫だろうと思ってたんです。が、この作品を観ている間、やっぱり撮影と照明がツライとか、戦国の描き方がツライとか「ああツライ、もう早く船で行ってくれ!頼む!さっさと息子に家督を譲ったらええやないか!織田家のことも天下布武も興味ないならさ!行こうぜ南蛮!ああツライ!信長もツラそうだけど私だってツライ!なんでもいい!行ってくれ!それでいい!大河の『毛利元就』の最終回の船のくだりで大号泣した人間だから大丈夫だ!行ってくれて全然オーケー!!!!」とか心の中で叫ぶくらいにダメージを負いまして。自分でもびっくりしました。この時の心の傷がエグかったので梅安どうしよう…とメソメソしていたところ、友達のよかった評を見て「なら行こうかな…!」と立ち上がったという流れでした。その節はありがとうございました…大感謝…)

前置きが長くなってしまったのですが…。でもこういう人間が大絶賛ということなのでどういうタイプの時代劇かはだいたいわかるんじゃないかなと思います。激渋サイコー映画です。まだ劇場でやってますし、4月には2部も公開されるので気になる方はぜひ!(2部作ですが1部ごとに話は完結してます)

※あまりネタバレはしないように感想を書きますが、ちょびっと中身に触れる部分もあるかもしれません。ご了承ください。

ではやっと中身の感想です。まず『仕掛人』とは暗殺を生業とする人間のことで、始まりはそこを軽く説明していきます。梅安ちょっとした語りと仕事っぷりだけで見せるのですが、この時点で「撮影がいい…!照明がいい…!街並みがいい!オープニングの梅安の仕事を描く気合の入り方がいい!水の中がいい!ああ全部いいありがとうございます!!!!」となっていました。これでもうあと2時間、安心です。

この時代、当たり前ですが電気はありません。明かりの頼りは日光と火です。これをどう撮影するかというのは作り手の人がラインを決めないといけません。特に夜なんてめちゃくちゃ暗いはずなので、人の顔だってぺかぺか映るわけはないんですね本来なら。私が感動したのは、「薄暗さ」を表現してくれたところです。夜の暗さはもちろん(ちゃんと月光ぽくしてたなぁ!)、昼間に締め切った室内で障子の奥の日光だけで話すシーンも、場面によって明るさを変えつつ(梅安が仕事の話をこっそりする部屋は暗くて逆行なので演者の顔は全く見えなかったり)薄暗い中の生活が<現代とは違う世界観>を描いていて感動しました。

役者さんの演技もいい。主演の2人もいいいし(トヨエツの人たらし感がすごい)、周りの人もよかった。柳葉さんの演技もすごくよかったし、天海さんもキレるように美しくて佇まいも素晴らしかったし、高畑さんの話し方も最高だったし。撮影と合わせて皆さんの演技もしっかりコントロールされてひとつの世界を作っていました。もうあとは早乙女太一さん。当たり前ですが殺陣が素晴らしすぎる!!登場シーンでしばらく顔が見えないので「誰だ!この人の肉を断つ斬り方をするのは!素晴らしい!強い侍に見える!」とスタンディングオベーション寸前でした。生真面目で不器用そうな硬い喋り方もGOOD!!!みなさんそれぞれキャラクターを体現する力が強かった。群像系時代劇はこうでなくっちゃいけません!

あ、ひとつだけ注意していただきたいのが。原作が古い作品であるのと、今回の話の流れがすべて<女性を手籠めにした者、またはその直接の原因となった者を殺す>になっているので、とにかくいろんな場面で女性がひどい目にあいます。苦手な方はご注意。ただこれも監督がきちんとしているなと思うのは直接的にはそのシーンを描かないところです。わかるように描かれはしますが映像として生々しく描くことはありません。(時々、この性描写にはいったい何の意味があるのかさっぱりわからない…と辟易することがあるので。あと昔の時代劇はそういう癖がありました。あ、2部の予告でちらりと映るシーンはちょっとキツいかもしれません)

激渋時代劇といっても昔のまま作っているわけではないので、アップデートしつつ時代劇としての雰囲気を残し、どこまで<かっこよく>できるか追及されたいい映画でした。昔のままでないといえば、細かいところですが天海祐希さんのアイメイクなんて完全に<現代風>になってました。いわゆる浮世絵風ではなくて。でも世界観からはみ出さない素敵なメイクでしたし、あのキャラクターにもよく合っていたと思います。

あとは、池波正太郎生誕100周年だ!からくる気合いなのか、食べ物描写が異常です(池波正太郎さんは美食家としても有名)。なにを作ってるか、なにを入れてるかしっかりわかるように見せてるし、どう美味しいかも話すし、梅安は麺も打つし、彦次郎(片岡愛之助さん)にお鍋も作るし、彦次郎も鰹節を削って梅安のためにお粥を作るし、料亭のごはんもちゃんとしてるし、とにかくよく食べます。で、全部美味しそう!!(2部は京都が舞台なのですが食べ物描写も楽しみすぎる)

----------------------------

あれこれ書きましたが、まー単純に質のとても高い素晴らしい時代劇でした。年に1回くらい作って映画館で流してくれ!!と思う。観られて本当によかったです。

主演の2人、藤枝梅安(今さら、豊川悦司さん。書き忘れ)と彦次郎はともに仕掛人です。「俺たちゃ気が合うってだけで程よい距離を保ちつつ、うまいことつるんでるのさ」みたいなことを彦次郎は初めに言っていますが、話が進むにつれ全然距離を保ってないことがわかり始め、「梅安さん」「彦さん」と仲良くする姿を見せつけられ、最後にはお正月も梅安さんちにお泊りしちゃうぞ!みたいな感じで梅安の作った蕎麦を食べて満腹でご機嫌でコタツにころーんと寝転がる彦次郎、「そのまま寝てしまってもいいよ」とか言う梅安、「上方(関西)に一緒に行こうか」とかいう話になり「しまいにゃ2人で旅行かよ!全然程よくないぞ距離感!2部は上方編だな!ちょー楽しみ!!!!!!」となる最高の構成の映画だったともいえます。

----------------------------

いやぁ~2部が楽しみですね。待ちきれません。次は佐藤浩市さんもでるし。だいぶ昔に観た時代劇映画で「ひーっ、周りはツライけど佐藤浩市さんだけ素晴らしい!馬のさばき方が美しい!この人だけ映してくれ!」と思ったことがあるので時代劇で観られるのが楽しみなんです。1部は梅安側の話、2部は彦次郎側の話のようです。どうなるのかな。(今回、あきらかに梅安より乱戦向きではない彦次郎が頑張るシーンがあってかわいかったですが、次回は彦次郎の技もいっぱい見たいです。殺し方にバリエーションがあるといいな。←すごいひどいこと言ってるみたいに見えますねこの言い方)

心の傷はすっかり癒されましたので、安心して4月を待ちます。1部はまだ映画館で観られます。激渋な上に平均年齢も高いですがオススメです。