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『大いなる遺産』-実写版の感想

年またぎになっちゃうなーとか言っている間にどんどん時が過ぎていき、やっと『大いなる遺産』の実写版の話をするかということになりました。タイミングがなくて。あれこれと宣伝しなきゃだったり新年の挨拶しなきゃだったりで。
でもいつもは時の流れが早すぎてヒヤっとするところがまだ1月とは。もう春くらいな気分です。お正月なんて遥か昔のことで「ありましたねそんなことも」みたいな。寒い時期に咲く桜を見たせいかもしれません。歩いてたら偶然見つけて。
そういえばこないだ散歩中に小学校の門から飛び出してきた子供とぶつかりそうになり「子供と御老体とは距離をとらねば危ない」とか思っているとその子供が門の向こう側にいる子に向かって「お前みたいな悪い奴とは友達にならない!」と叫んだのでびっくりしてしまった。散歩中はイヤホンで音楽を聴いているのにそれでもしっかり聞こえる大声でした。ぎょっとして「言うなぁ。何があったんだ」と顔をしかめているのをすれ違ったおじさんに見られてしまったりもして。それにしてもあんな狭い世界で何年も生きていかなきゃならないなんて子供も大変だ。わたしは小学校高学年の頃に「大人(教師)は自分の都合と機嫌でこっちを褒めたり叱ったりしてきやがる。勝手な奴らだ。あーいやだいやだ」と思うことが何度もあったし、いまだに<絵を描くこと自体が好きではない>のはこの頃の教師のせいだということも自覚しているので(学校の<美術>がイヤだったし大人に勝手に評価されるのもイヤだったし描いてる手元を見られるのもイヤだったし何なら褒められてもムカついていた)、子供を見ると「はやく成長できるといいねぇ」と思ってしまう(余計なお世話だなぁ)。
 
あー打ち込みながら変なことを思い出してしまった。
 
本題に戻ります。チャールズ・ディケンズ『大いなる遺産』のお話。昨年に原作本を読んでみたらすごく面白くて「今でも読まれてる名作って本当に面白いんだなぁ」と感嘆したわけですが。あ、その記事はコチラです。
(今読み返してみたらすごく読みづらい感想文だったなぁ。本がおもしろくて興奮してたのかもしれません。書き直すのは面倒だからそのままにしておきます)

さて、せっかく本を読んだので実写の方もちゃんと観てみようということで。ドラマ版と映画版と新しめの作品がちょうどamazonのプライムビデオにあったので鑑賞してみました。原作はとても分厚いので2時間だの3時間だのにまとめるのはまず無理です。どのエピソードを入れ、どこを省略し、何を伝えるかはそれぞれの作品ごとに違います。古典作品の映像化はこれを楽しむためにあるといっても過言ではないでしょう…!楽しいなぁ。
では、その2本の感想を書いていこうと思います。
※『大いなる遺産』(原作および実写)のネタバレが含まれます。注意!
 
『大いなる遺産』2011年版BBCドラマ
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観た順で、まずはコチラ。
全3話で約3時間の作品。実は昔ちらりと観たことがあるんですが、ハーバートが可愛かったこと以外ほぼ覚えていませんでした。(たぶんハーバートと出会って少しのあたりしか観なかったんだと思う)
 ■キャスト
ピップ:ダグラス・ブース
エステラ:ヴァネッサ・カービー
ミス・ハヴィシャム:ジリアン・アンダーソン
ハーバート:ハリー・ロイド
ジャガーズ:デイヴィット・スーシェ
 
キャスト陣は豪華です。ダグラス・ブースはいろんな作品で観られますし、ヴェネッサ・カービーはハリウッドで人気になっているし。(個人的には『ワイルド・スピードスーパーコンボ』がおすすめ笑)ジリアン・アンダーソンXファイルのスカリーで有名ですが今でもドラマの主演やったりしてますね。(ドラマ『ハンニバル』の時キレるように美しかった)スーシェはもちろんポワロ。
撮影もセットも豪華だったしBBCクオリティーは間違いなしという感じです。
ただ、個人的には脚本がよくなかった…。というか、原作から変えている部分がけっこうあって。これは短い時間に抑えるためにだいたいの実写で行われることなので仕方ないのですが、キャラクターの性格まで変えられるとなかなか辛い。特にキャラクターに魅力のある作品なので主要キャラのあり方を変えてしまうと作品そのものが変わってしまう。
このドラマだとミス・ハヴィシャムの変更部分が強すぎました。ほとんどそれ(変更されたミス・ハヴィシャムを描くこと)を目的化したような脚本で、おかげで主人公であるはずのピップのドラマが希薄になってしまった印象です。原作のミス・ハヴィシャムはひどい裏切り(詐欺)にあって「(心を)引き裂かれてしまったのよ」と言うのですが、お嬢様らしいわがままさと、傷ついた後に引きこもりその中で煮詰まった残酷さも持ち合わせていて、わめいたりピップを貶めて楽しんだりするのですが。このドラマでは「ただ傷つき悲しみに生きるあまりに少し狂気を持った」美しいものとして描かれており最後に自分で火をつけて燃えるシーンも美しい撮影になっていて、ミス・ハヴィシャムの人間臭さがなく魅力が半減してしまったように思えました。(この脚本だからこそのキャスティングだろうとは思う。ジリアン・アンダーソンはとても似合っていたけどやっぱり元のミス・ハヴィシャムとは似ても似つかない。原作のミス・ハヴィシャムの火傷は事故だし、叫びながら転がるのをピップが覆いかぶさってなんとか消化するという悲惨で悲しいけど滑稽でもあるシーンでした)
ピップとエステラの方も変えられていました。特にエステラの方かな。2人はしっかりした両思いとして描かれ、最後の再会も時間をおかずに夫の事故のすぐ後のように描かれていて、ハッピーエンドでした。(2人はそのあと結ばれますといった雰囲気)ミス・ハヴィシャムと合わせて全体的に恋愛劇のような作りになっていて(そのため原作にはない追加シーンもあった)、それにしては(原作の流れの通りに)がちゃがちゃと事件が起きるのでまとまりがありません。
主要なキャラクターが大幅に変更されているので周りも少しづつズレていくしかなかったようです。ピップの恋愛面が強調されたためジョーの存在感はなく(というかジョーの性格も描く必要がなくなってしまったためか変更されて普通のしっかりした大人なだけでした)、マグウィッチ周辺もあっさりしていて残念。ハーバート・ポケットが1番原作に近かったです。ハリー・ロイドの明るさがピッタリでした。
んー愛や恋の話をしようとした印象でしたが、この作品は他の要素が多すぎるので無理があって結局なにがしたいのかよくわからない感じでした。恋愛話であれば他にいい古典作品はたくさんあるのだし『大いなる遺産』でやるのはやめとけばよかったのになぁ、というのが総合的な感想です。せっかくドラマ版だったのになぁ。(映画よりは時間がある)
 
では次。
 
『大いなる遺産』2012年イギリス映画
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わたしはこれを結構最近の映画だと勘違いしていましたが2012年制作でした。日本で初めて放送されたのが2018年だそうです。劇場では未公開。(知らないわけだー)
■キャスト
ピップ:ジェレミー・アーヴァイン
エステラ:ホリデイ・グレインジャー
ミス・ハヴィシャム:ヘレナ・ボナム=カーター
ハーバート:オリー・アレクサンダー
ジョー:ジェイソン・フレミング
ジョーの妻:サリー・ホーキング
マグウィッチ:レイフ・ファインズ
ドラムル:ベン・ロイド=ヒューズ
 
こちらもキャスト豪華ですね。脇が強い…!
作品全体としては<当時のロンドンの汚さ>にかなり挑戦していて感動しました。特にピップが越してきたばかりの頃の住居周辺の泥臭さとか薄暗さとか最高ですね。この映画はなるだけ原作の中にある空気感を映像化しようという試みが強くてとてもよかったです。合わせて話の流れやキャラクターも忠実にしようとしていて感動しました。制作側に原作大好き人間がいるに違いない。
というのも、はじめに書いたように原作のボリュームからして映像化する時には省略して短くするしかないわけですが。わたしが大好きな原作のシーンは自分で考えても「いやこれは省略するべきエピソードだな。入れてもしょうがない」と思う場面なのですが、なんとこの映画はそのシーンを描いてくれていたのでした。(脚本の人は絶対にウェミックが好きだ!)わざわざウェミックの家と跳ね橋と大砲と親父さんのシーンを入れるなんて。最高か。(ピップがロンドンで世話になる弁護士事務所の事務員、ジョン・ウェミック。ピップの友人になってあれこれ世話をやいてくれますが、話を2時間でまとめるにはウェミックは省略されても仕方ない人です。主要事件に絡む弁護士のガージャリーは絶対的に描く必要があるため、その周辺のほっこりエピソードは省略するしかない。普通は)
いや~わたしはこのウェミックの家の話が大好きで。屋根上になぜか大砲が一丁取り付けられていて、毎日決まった時間にどかんとやるのを耳の遠いウェミックの父が楽しみにしてる…という。耳の遠い父親に大声で話しかけるウェミックや、「親爺さんにはとにかく頷いてやってくれ」と言われたピップが隣で首をがくがくさせるところや、大砲を撃ってきゃっきゃっしてるシーン(なぜか少しスロー演出が入って異常にかわいい)を映像で観られるとは思ってもみませんでした。(びっくりして「えっ!?ウェミックの家やってくれるの!??」と大声がでた笑)
ほかにも、キャラクターの描き方が細かくてとてもよかったです。天使のようなジョーは健在だったし(ミス・ハヴィシャムの質問に答えなきゃなのに、なぜかその返答をピップに向かって話しかけるとこの再現すばらしい)、ハーバートがピップのことを「ヘンデル」という愛称で呼ぶのもそのままやってたし(短い時間の中で主人公の名前を違う愛称で呼ぶのはややこしいから省略した方がわかりやすいのに)、ミズ・ハヴィシャムの残酷で意地の悪い雰囲気も出ていたし(ヘレナ・ボナム=カーターはさすが!)、エステラの「感情がないのよ」と言いながらなし崩しに人生が転がっていくのを受け入れている感じもあったし。なにより、周りの状況に巻き込まれながら恋をしたり勘違いしたりジタバタするピップのひとり相撲感もちゃんと出ていました。(ピップは主人公にしては巻き込まれ型で狂言回しのようでもあり、物語を引っ張っていく推進力を持たないので映像化の主人公としてとても描きにくい。小説だと一人称で描かれるのでそれで楽しめるんですが)
レイフ・ファインズがマグウィッチにしては本人からにじみ出る高貴さが隠しきれてなかったりもしたけど。でもさすがの演技力でカバーといった印象。
ドラムルは個人的に演技が大好きなベン・ロイド=ヒューズが演じていたので「嫌な奴だけどもっと観たい~」と思ったり。
 
とにかく原作をそのまま映像化しようという映画でした。映像もいいしキャラクターもいいし2時間くらいで見切れますのでとてもオススメです。
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わがままを言えばハーバートがピップの火傷の世話をしてくれるシーンが観たかったなぁ。あそこの優しさや友情には感動した…。ま、あとでジョーも来て世話してくれるので映像化となればジョーが優先されるのは仕方ない…!ウェミックの家をやってくれてありがとう…!!
 
イギリスでは定期的に古典小説が映像化されています。いろんな配信サイトでBBC作品観られますのでまったく追いつきません。苦しい喜び…。『高慢と偏見』の映像化では傑作の1995年ドラマ版も観られます。オススメです。伝説のお池飛び込みシーンは原作にはありません笑
あとは現在公開中の映画どん底作家の人生に幸あれ!』ディケンズの自伝的小説『デイヴィット・コパフィールド』が原作です。早く観なきゃ。(観る前に原作を読もうと試みましたが忙しさとボリュームのすごさを前に断念しました…うぐぐ。観てから読みます)
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「何だこの邦題は…原作ファンも見逃すぞこれ…」とはじめは呆然としましたが日本には来ないと諦めていた作品だったので来てくれただけでも…ぐぐぐ…ありがたいのか。あ、ついでに新しい『エマ』の映画もお願いしますよ。持ってきてください。頼みますよ。ジョシュ・オコナーくん出てるんですよ。劇場のスクリーンで観たいー!
 

 

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